1 借地・借家契約への影響

第17.1 借地・借家契約への影響

● 震災時に生じる法律問題

 

Q・阪神淡路大震災や東日本大震災、熊本地震が起こったとき、テレビなどで甚大な被害の模様が報道されていました。  
 このような震災の際には、どのような法律問題が生じますか。

A・平成7年の阪神淡路大震災の際には、震災関連の法律相談のうち、約6割が借地借家関係のものであり、その他、建物倒壊による損害、売買契約や請負契約、借入金等への影響、保険関係の相談が多かったことが報告されています。
 また、東日本大震災の際における法律相談も、借家関係の相談が多く、そのほかは不動産の所有関係、隣家家屋等の倒壊による損害、住宅ローンや車等のリース関係といった相談が多かったと報告されています。


 

● 借地借家関係に適用される法律

 

Q・震災で建物が被害を受けた場合、今後の借地契約や借家契約がどうなるかについては、どのような法律が適用されますか。

A・通常の場合と同様、民法や借地借家法が適用されます。
 政令の定めがあれば、罹災都市借地借家臨時処理法(「罹災法」)が適用されることになります。

Q・罹災法というのは、どのような法律ですか。

A・もともと昭和21年に、空襲等の戦災に際して制定された法律で、建物が「滅失」した場合に、被災した借家人に土地の優先的賃借権を認めることなどを定めたものです。
 阪神淡路大震災や、平成16年の新潟県中越地震の際には、政令で、この罹災法の適用が定められました。 
 これに対し、東日本大震災の際には、法務省と国土交通省が協議し、被災市町村の意向を踏まえ、政令を定めず、罹災法を適用しないこととしました。


 

● 借家契約への影響

 

Q・通常の民法や借地借家法だと、震災で借家が損壊した場合、借家契約にどのような影響がありますか。

A・建物自体が「滅失」の状態かどうかで異なります。
 建物が完全に倒壊・焼失するなど「滅失」した場合には、もう借家自体がありませんので、その時点で借家契約は当然に終了します。

Q・「滅失」となったかどうかは、どのように判断するのですか。

A・具体的な建物の損壊状況によります。
 損壊が一部で、修繕が可能であれば「滅失」にはあたりませんが、新築に匹敵する修繕費用がかかるような場合は「滅失」と判断されます。
 建物自体が存在していたとしても、構造上・機能上の問題から「滅失」と判断される場合もあります。


 

● 建物の「滅失」に至らない場合

 

Q・「滅失」には至らない損壊の場合には、借家契約は当然終了とはならないのですね。
 その場合、修繕費用は誰が負担するのですか。

A・震災が原因でも、修繕費用は賃貸人が負担するものとされています。
 なお、賃貸借契約書で修繕費用の負担について特約を定めている場合や、地方の慣行等が影響する場合がありますので、確認が必要です。

Q・賃貸人が修繕してくれない場合には、どうしたらいいですか。

A・借家人が自分で修繕して、その費用を賃貸人に請求したり、賃料との相殺を請求することが考えられます。

Q・修繕してくれるまで、賃料の支払いを拒むことはできますか。

A・できます。但し、多少の支障があっても入居可能な場合には、一部の支払いを拒むことができるにすぎません。


 

● 借地契約への影響

 

Q・借地の場合、通常の民法や借地借家法では、震災で建物が損壊した場合、借地契約に何か影響はありますか。

A・借地の場合は、建物の一部損壊の場合はもちろん、建物の「滅失」の場合でも、借地契約は存続します。
 建物は自分(借地人)の所有ですので、修繕や改築も本来は自由です。
 但し、借地契約には「増改築禁止特約」が定められていることが多いので、その場合には、地主の承諾や、承諾料の支払いが必要となりますので、注意が必要です。


 

震災時の法律関係を知っておくことは、紛争を事前に回避し、復興にエネルギーを傾注するためにも必要なことです。
 また、こうした紛争は、話し合いの開始が早期であればあるほど、円満に解決される傾向にあります。
 そのような意味においても、法律知識を広くお伝えすることは、私たちの責務でもあります。

 被災された皆さまのご健康と、復興を心よりお祈り致します。