
6 子の引渡請求
第10.6 (1)子の引渡請求①
● 子の引渡しを求める審判
Q・たとえば、別居中の夫婦がいて、母親が子を監護していたのに、ある日突然、父親が子を連れ去ってしまったという場合、母親としては、どのような方法で子を取り戻すことができるのかしら。
A・通常考えられるのは、子の引渡しを求める家事審判を申し立てる方法だ。
Q・それはどのような方法なの。
A・家庭裁判所に申立てをして、子の引渡しを命じる審判を出してもらい、裁判所から相手方に対して子を引き渡すよう勧告してもらったり、強制執行の方法によって子を取り戻す、というものだよ。
● 審判の判断基準
Q・まだ離婚前だから、連れ去った父親にも親権があるわよね。この場合、子の引渡しを命じる審判を下すかどうかは、どのように判断されるのかしら。
A・「父母の側の事情」や「子の側の事情」を総合的に比較衡量して、いずれの親に子を監護させるのが子の福祉にかなうかという観点から判断されるよ。
Q・父母の側の事情としては、どのようなことが考慮されるの。
A・父母の各人の年齢・健康状態・性格などを踏まえた監護の能力、資産や収入・職業・住居などの家庭環境や、居住環境、教育環境、子に対する愛情の度合い、従来の監護状況、それから、親族の援助が見込めるかどうかなど、様々な事情が考慮される。
Q・子の側の事情としては、どのようなことが考慮されるの。
A・従来の環境への適応状況や、環境の変化への適応性、子の年齢、性別、心身の発育状況、兄弟姉妹との関係、子自身の意向など、これも様々な事情が考慮される。
Q・たとえば、父が経済的には監護能力が優れているけれども、子との結び付きは母のほうが強いというように、性質の異なる様々な事情を、裁判所はどのように判断するのかしら。
A・過去の裁判例では、
(1)継続して子の監護をしてきた親の実績を重視する「監護の継続性の原則」を用いて判断したもの、
(2)乳幼児にとっては母による保育を欠かせないとして、母親を優先させる「母性優先の原則」を用いて判断したもの、
(3)面会交流に非協力的な親よりも、面会交流に柔軟に対応する親を優先させる「面会交流寛容性の原則」を用いて判断したもの、
(4)子の意思を尊重するという原則を用いて判断したもの
などがあるよ。
(1)継続して子の監護をしてきた親の実績を重視する「監護の継続性の原則」を用いて判断したもの、
(2)乳幼児にとっては母による保育を欠かせないとして、母親を優先させる「母性優先の原則」を用いて判断したもの、
(3)面会交流に非協力的な親よりも、面会交流に柔軟に対応する親を優先させる「面会交流寛容性の原則」を用いて判断したもの、
(4)子の意思を尊重するという原則を用いて判断したもの
などがあるよ。
Q・様々ね。それぞれの原則同士が対立する場合もありそうね。
A・そうだね。
最終的には、様々な原則を基準にしながらも、個々の事案ごとに様々な事情を総合的に考慮して、いずれが監護者として適格かということを、家庭裁判所が、子の福祉や利益優先の観点から判断するしかない。
絶対的な基準というものは存在しないというのが実情だ。
最終的には、様々な原則を基準にしながらも、個々の事案ごとに様々な事情を総合的に考慮して、いずれが監護者として適格かということを、家庭裁判所が、子の福祉や利益優先の観点から判断するしかない。
絶対的な基準というものは存在しないというのが実情だ。
● 強制執行の方法
Q・子の引渡しを命じる審判が出たのに相手が従わない場合、強制執行はできるの。
A・子の引渡しに応じない親に対して、金銭賠償を課し、間接的に引渡しを強制するという方法(間接強制)をとることができるよ。
さらに、直接的に引渡しを強制する(直接強制)というのは、簡単ではない。
さらに、直接的に引渡しを強制する(直接強制)というのは、簡単ではない。
Q・審判によって引渡しが認められても、それを直接的に強制できなければ結局、実力で連れ去った者が事実上優先してしまうことになるわ。
A・その心配はあるね。
ただ、直接強制の方法は、子の人格尊重の観点からすると好ましいとはいえないし、子の情操や身体の安全に与える影響も無視できない。
裁判所の運用としては、意思能力を有しないような幼い子の引渡しに限って直接強制を認める場合はあるようだ。
ただ、直接強制の方法は、子の人格尊重の観点からすると好ましいとはいえないし、子の情操や身体の安全に与える影響も無視できない。
裁判所の運用としては、意思能力を有しないような幼い子の引渡しに限って直接強制を認める場合はあるようだ。
● その他の引渡しを求める方法
Q・家庭裁判所に審判を申し立てる以外に、子の引渡しを求める別の方法はあるの。
A・人身保護法に基づく人身保護請求が考えられるけど、この方法については、第10、7で話すことにしよう。