5 親権の喪失・停止

第10.5 親権の喪失・停止

● 親権喪失・停止の審判

 

Q・親が子どもを虐待するという、残念な事件を時々聞くわ。
 そのようなケースでは、例えば周囲の親族はどういう対処ができるのかしら。

A・「親権喪失」や「親権停止」の審判を申立てることが考えられるよ。

Q・どういう制度なの。

A・家庭裁判所に申立を行い、その親の親権を失わせるという制度だ。
 「親権喪失」の審判は、その親の親権を完全に奪うのに対し、「親権停止」の審判は、一時的に親権を停止させる制度だよ。
 親が子を虐待するなど、親権の行使が「著しく」不適当であり、子の利益を著しく害するという場合は、親権喪失の審判が、そこまでは至らない場合は、親権停止の審判が利用されるよ。

Q・親権者の問題の程度に応じて、制度が使い分けられているのね。

A・そうなんだ。
 以前は、親権喪失の審判の制度しか存在しなかったんだ。
 しかし、親権を完全に喪失させるというのは過剰であり、一時的に喪失させることで問題解決が図れる場合があることから、平成23年に民法が改正され、新たに親権停止の審判の制度が創設されたんだ。

Q・親権停止の審判は、どのくらいの期間、親権を停止させるの。

A・2年が上限とされていて、個別の事案ごとに、一切の事情を考慮して期間が決定されるんだ。


 

● 誰が親権を行うか

 

Q・親権喪失や停止の審判がなされると、誰が子の監護や養育を行うの。

A・父母の一方だけが親権喪失や停止の審判を受けた場合は、他方の親が親権者として子の監護養育を行うことになる。

Q・父母の双方がともに審判を受けた場合はどうなるの。

A・その場合は、親権を行う者がいなくなってしまうので、親族や児童相談所長などの利害関係人、15歳以上であれば子自身が「未成年後見」の申立を行うことができる。
 家庭裁判所が選任する未成年後見人が、その未成年者の監護養育や、財産管理などを行うことになるよ。

Q・裁判所はどういう人を未成年後見人に選任するの。

A・例えば、未成年者の祖父母などが、自らを後見人候補者として申立て、選任される場合がある。
 しかし、裁判所は、未成年者の生活状況や財産状況などの諸事情を総合して判断することとされているので、弁護士や司法書士などの専門家を後見人に選任することもあるよ。

Q・離婚などで、親権者がもともと1人しかいなかったという場合に、その親が親権を喪失したり停止された場合にも、親権を行う者がいなくなってしまうわよね。
 この場合も、未成年後見人が選任されることになるの。

A・そうだね。ただし、その場合は、離婚した他方の親に親権者を変更する場合もあるよ。


 

● 親権喪失等による影響

 

Q・親権を喪失したり停止している間は、父母としての権利や義務はどうなるの。

A・親権に含まれない父母としての権利義務には影響がないんだ。
 例えば、親族として相互に扶助すべき義務や、未成年の子の婚姻や特別養子縁組についての同意権、それから、相続権などは影響を受けないよ。

Q・戸籍の記載には影響するの。

A・親権喪失や停止の審判がなされたことが戸籍に記載されることになる。


 

● 審判前の保全処分

 

Q・親権喪失や停止の審判が出るまで、どれくらいの時間がかかるの。

A・平成24年の統計によると、2~3か月で手続が終わることが多いよ。

Q・親権者の虐待がひどくて、急を要するという場合はどうしたらいいの。

A・その場合は、親権喪失や停止の審判の申立とともに、現時点の親権の職務執行の停止と、職務代行者の選任を求める「審判前の保全処分」を申立てることができるよ。