4 無戸籍児問題

第10.4 無戸籍児問題

● 嫡出推定

 

Q・夫婦がもう何年も別居している期間中に、妻が夫以外の男性の子を出産したという場合、出生届はどうなるのかしら。

A・その場合、夫を父とする出生届しか受理されない。血縁上の父を父とする出生届は受理されないんだ。

Q・どうしてなの。

A・妻が婚姻中に懐胎した子は、法律上、夫の子、すなわち「嫡出子」と推定される(「嫡出推定」。婚姻から200日経過後、または、離婚後300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定される。)
 戸籍の窓口では、実際の血縁上の父が誰かという判断はできないので、この嫡出推定により、夫を父とする出生届しか受理できないんだ。
 そのような事情で出生届がされていないことが、「無戸籍児問題」「離婚後300日問題」として、社会的にも問題となっているよ。

Q・血縁上の父を父とする出生届を受理してもらうには、どうしたらいいの。

A・この場合には、夫から「嫡出否認の手続」をとってもらうか、「親子関係不存在確認の手続」、「強制認知の手続」をとる必要があるよ。


 

● 嫡出否認の手続

 

Q・嫡出否認の手続というのは、どのようなものなの。

A・夫から、子またはその母(妻)を相手に、家庭裁判所に調停を申し立てる必要がある。そこで、家庭裁判所は、
 (1)子が夫の嫡出子であることを否認する審判を受けることについて、当事者の意思を確認し、
 (2)嫡出推定に反する事実関係(長期間の別居、性交渉の不存在など)について、当事者間に争いがないこと、
 (3)子と夫、血縁上の父とのDNA鑑定の結果等を考慮し、嫡出否認の審判をするんだ。
 この調停は、子が生まれたことを夫が知った日から1年以内に申立をする必要があるから、注意が必要だ。


 

● 親子関係不存在確認、強制認知の手続

 

Q・親子関係不存在確認、強制認知の手続というのは、どのようなものなの。

A・親子関係不存在確認の手続は、多くの場合、子から、母の夫を相手に、家庭裁判所に調停を申し立てる方法で、また強制認知の手続は、子または母から、血縁上の父を相手に、家庭裁判所に調停を申し立てる方法で行うよ。
 いずれの調停においても、家庭裁判所は、嫡出否認の手続の場合と同じように、
 (1)申立内容のとおりの審判を受けることについて、当事者の意思を確認し、
 (2)嫡出推定に反する事実関係(長期間の別居、性交渉の不存在など)について、当事者間に争いがないこと、
 (3)子と夫、血縁上の父とのDNA鑑定の結果
 等を考慮し、親子関係不存在確認や、強制認知の審判をするんだ。


 

● 子の出生届

 

Q・それらの手続を行って、審判をもらえば、血縁上の父を父とする出生届を受理してもらえるのね。

A・そうなんだけど、その場合でも、嫡出でない子は母の氏を称するとされているので、母とその夫の戸籍に入ることになる。ただ、子の父欄だけが空欄のまま掲載されることになるんだ(強制認知の手続をとった場合や、血縁上の父親が認知すれば、父欄に血縁上の父の名が記載される)。

Q・嫡出否認等の審判よりも先に、夫婦が離婚している場合はどうなの。

A・その場合でも、出生が婚姻期間中であれば、出生時の母の氏を称することになるので、子はいったんは元夫の戸籍に入る。
 その後、元夫の戸籍から、母の戸籍に移る「氏の変更」の手続を家庭裁判所でとる必要があるよ。
 (出生時にすでに離婚していた場合は、最初から母の戸籍に入る。)


 

● 夫婦の子として出生届を提出していた場合

 

Q・すでに夫婦の子として出生届を提出し、戸籍に記載されていた場合に、嫡出否認の手続等を行った場合、戸籍の記載はどうなるのかしら。

A・その場合は、嫡出否認等の審判確定を原因として、子の父欄が削除されることになるよ。
 その後、夫婦が離婚し、「氏の変更」の手続をすれば、母の戸籍に移すことができる。