2 敷金に関するトラブル

第3.2 敷金に関するトラブル (2)借主負担の場合の留意点1

● 原状回復費用を借主が負担する場合

 

Q・私の甥っ子は、大学4年間、新築のマンションを借りていたわ。部屋の模様替えで家具を移動していたときに、壁のクロスに大きな傷を付けてしまったの。
 甥っ子は原状回復費用を負担しなければならないのかしら。

A・前回解説したように、
 (1)借主の故意・過失
 (2)借主の善管注意義務違反
 (3)その他通常の使用を超えるような使用
 による損耗や毀損については、借主が原状回復費用を負担することになるとされているんだ。
 部屋の模様替えの際に、大きな傷を付けてしまった場合には、上記(1)または(2)にあたると考えられるから、甥っ子さんは原状回復費用を負担せざるをえないかな。


 

● 経過年数を考慮して借主の負担割合を決める

 

Q・やはりそうね。
 貸主からは、クロスの張替え費用を負担するように言われているみたいなの。

A・借主が原状回復費用を負担することになる場合でも、損耗や毀損した部位によっては、建物や設備などの経過年数を考慮して、負担割合が減少することがあるよ。

Q・全額負担しなくてもよい場合もあるってことよね。どうしてなの。

A・前回解説したように、賃貸住宅の賃料には、「経年変化」や「通常損耗」の回復費用が通常含まれている。
 たとえ借主が負担する場合であっても、「経年変化」の回復費用は賃料で既に支払っているのに、その分も別途原状回復費用として支払うことになると、借主は「経年変化」の分の回復費用を二重に支払うことになってしまう。だから負担割合は減少すると考えられるんだ。

Q・甥っ子の場合にはどうかしら。

A・負担割合を決める方法は、いくつか考えられるけど、損耗・毀損の部位が「クロス」の場合に負担割合を決める方法の一例として、「6年」で残存価値が1円となるような直線を想定して、「経年変化」分を算定し、負担割合を決める方法があるよ。
 この方法で負担割合を決める場合、甥っ子さんは、新築マンションに4年間住んでいたから、「経年変化」分は、100%×4年/6年=66.7%を基準に算定される。
 この場合、甥っ子さんは、クロスの張替え費用の33.3%の額を負担することになると考えられる。

Q・そうなのね。たとえば、「経年変化」の分が100%になった場合、借主は原状回復費用は負担しなくなるということかしら。

A・その場合でも、一定の費用は負担する必要がある。クロスを張り替えないまでも、何らかの修復は必要と考えられるからね。


 

● 経過年数を考慮しない場合もある

 

Q・さっき損耗・損傷の部位によるって言っていたけど、経過年数が考慮されない場合もあるということね。

A・そうなんだ。次のような場合には、経過年数を考慮せずに、修復費用を負担しなければならないと考えられているよ。
 (あ)建物本体と同様に長期間の使用に耐えられる部位であって、部分補修が可能な部位。
  (フローリングの部分補修をする場合などが、これにあたる。)
 (い)消耗品としての性格が強い部位。
  (襖紙・障子紙や畳表を交換する場合などが、これにあたる。)