2 遺言の法律問題

第1.2 遺言の法律問題 (5)遺言書が複数あった場合の対処

● 遺言が2通ある場合

 

Q・夫の死後、夫の自筆証書遺言について検認手続を経た後、新たに夫の公正証書遺言が1通見つかりました。
検認済みの自筆証書遺言と公正証書遺言がある場合には、どちらが優先するのでしょうか。

A・複数遺言がある場合の優劣は、作成年月日の先後で決まり、新しく作成された遺言の内容が優先します。
 公正証書遺言だからといって、自筆証書遺言より優先するわけではありません。

Q・そうですか。
夫の自筆証書遺言には、
(1)住んでいたマンションは息子に、
(2)銀行預金2500万円は私に、
それぞれ相続させると書かれていました。
ところが、新たに発見された公正証書遺言には、
(a)妻である私を遺言執行者に指定すること
(b)銀行預金については、500万円を息子に、残りの2000万円を妻である私に相続させることと、
(c)自筆証書遺言よりも以前の作成年月日
の記載がされていました。
先ほどの説明からすると、(c)の記載から、公正証書遺言よりも後に作成された自筆証書遺言の内容が優先し、公正証書遺言の内容はすべて無効となるのですね。

A・いいえ。優劣が問題となるのは、遺言の内容が両立しない部分のみです。
 本件では、自筆証書遺言の「(2)銀行預金(2500万円)は妻に相続させる」との内容と、公正証書遺言の上記(b)の銀行預金についての内容が、矛盾し、両立しません。
 ですので、公正証書遺言の(b)の記載のみが無効となります。
 一方、自筆証書遺言に記載のなかった(a)遺言執行者の指定の記載は、自筆証書遺言と矛盾せず、両立しますので、有効です。


 

● 遺言執行者の指定

 

Q・夫が作成した公正証書遺言には、(a)妻である私を遺言執行者に指定することの記載もありますが、被相続人の遺言による指定も可能なのですか。

A・そうです。法律上(1)利害関係人による請求の他、(2)遺言による指定の方法によっても、遺言執行者が選任できます。

Q・遺言では、私が遺言執行者に指定されていますが、指定された私は、絶対に遺言執行者になる必要があるのでしょうか。

A・いいえ、遺言による指定があった場合でも、遺言執行者への就任を拒むこともできます。
 他方、就任を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならないとされています。